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神戸地方裁判所姫路支部 昭和24年(ヨ)15号 決定

申請人

全日本機器労働組合日本電気製鋼分会

被申請人

株式会社日本電気製鋼所

当裁判所は次の通り決定する。

主文

申請人の本件申請は之を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

申請人代理人は 一、被申請人は申請人対して金弐拾五万円を仮りに支払ひせよ。二、本命令は直に強制執行が出来るとの裁判を求め、その理由として本件当事者間に昭和二十三年七月以来労働争議状態が発生し申請組合員等は同年八月以降の労働賃金の満足なる支払ひを受けて居ないで今日に及んでいるところ、昭和二十四年三月一日兵庫県地方労働委員会の斡旋によつて申請組合員全部の退職を認め被申請人は退職金として金五拾万円を支払ふこととし、内弐拾五万円を同年三月二十日限りに支払ひ残額は十ケ月月賦払ひとし、同年四月末日から毎月弐万五千円宛支払ふ等を骨子とする仮協定書に互に調印した。即ち組合側は石井完が又会社側は代表取締役田村八郎が調印したのである。ところで本調印は同年三月八日にする約束であつたのに、其の日になつてから被申請人はどうしても金が出来ないから先きの仮協定書はその趣旨は尊重するが実際履行出来ないからと称して本協定書の作成に応じない。そこで地労委の人達も大変怒つてしまひ、遂にそのまま今日になつて居るが申請人側労働者は全部工場から既に追い出されているし、実に進退極つて種々地労委の人達とも相談したところ此の仮協定書は単に本協定書を作らしめる権利義務を設定しているものではなく、其の内容たる事項の履行に付直接権利義務が生じていると見るべきであるから適当なる法律上の手続きに従つて其の履行を求めるべきであろうとの助言を得たので、茲に本申請に及んだのであるが、思ふに本仮協定書記載の如き内容の契約は所謂諾成無式に成立するもので、仮に又予約する観念の入る余地はないのであるが、只労働関係に関しては労働者側に於て念の為組合総会にかけて其の上正式調印にする慣行あるが故に、それに従つて本件仮協定書も作成されたのであるがそれは専ら組合側に於てこそ仮の字を冠らしめる理由があつたのであつて、被申請人側に於ては全く何等の理由があつたのではなく、只々慣例上仮りの字を冠したに過ぎないのであるから組合側に於て所謂大衆の承認を得たる以上これはそのまま本協定としての効力あるものと言わねばならない、そこで申請人は本日此の仮協定書の趣旨に拠り昭和二十四年三月二十日限りに支払はるべき金弐拾五万円の請求訴訟を提起したのであるが、何分前記の如き有様で労働者は実に今日の生活に窮しているのだから本案判決確定迄到底待ち切れない事情にあるので、仮の地位を与える趣旨に於て本申請の趣旨の通り仮処分命令を出して貰い度いと思ふのであると主張している。そこで本件仮処分が許されるべきものかどうかについて考へて見ると、民事訴訟法第七百六十条に所謂仮の地位を定める仮処分は係争の権利関係が数回の行為を目的とし若しくは占有の状態を維持するが如く其の性質に於て継続するときに於てのみ許されるものであるが、本件に於ける債務関係は仮りに申請理由の様に分割払の約定があつたとしても、それらは夫々一回の給付に由り消滅するところの権利関係に属するものであるから右仮処分の許されたる場合に該当しない。従つて申請人の申請は却下すべきものである。尚申請費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り決定した。

申請

神戸地方姫路支部昭和二四年(ヨ)第一五号仮処分申請事件(昭和二四・三・三一申請)

一、当事者

申請人 全日本機器労働組合日本電氣製鋼分会

被申請人 株式会社日本電氣製鋼所

二、申請の趣旨

(一)、被申請人は申請人に対し金二拾五万円を仮りに支払ひせよ

(二)、本命令は直に強制執行が出来る

との裁判を求める。

二、申請の理由

(一)、本件当事者間には昭和二十三年七月未日頃以来労働争議状態となり、申請組合員等は同年八月分以降の労働賃金の満足なる支払ひを受けていないで今日に及んでいる。更に、昭和二十四年三月一日兵庫県地方労働委員会の斡旋によつて申請組合員全部の退職を認め被申請人は退職金として金五拾万円を支払ふこととし内弐拾五万円を同年三月二十日限りに支払ひ、残額は十ケ月月賦払ひとし同年四月未日から毎月二万五千円宛支払ふ等を骨子とする仮協定書に互に調印した。

則ち組合側は石井完が又会社側は代表取締役田村八郎が調印したのである。

(二)、処で本調印は同年三月八日にする約束であつたのに其の日になつてから被申請人は何うしても金が出来ないから先きの仮協定書は其の趣旨は尊重するが、実際履行出来ないからと称して本協定書の作成に応しない、そこで地労委の人達も大変怒つてしまひ、遂に其のまま今日になつているが申請人側労働者は全部工場から既に追い出されている、実に進退極まつて、種々に地労委の人達とも相談した処が此の仮協定書は単に本協定書を作らしめる権利義務を設定しているものではなく、其内容たる事項の履行には直接権利義務が生じていると見るべきであるから適当なる法律上の手続きに従つて其の履行を求めるべきであろうとの助言を得たので、茲に本申請に及んだのであるが思ふに本仮協定書記載の如き内容の契約は所謂諾成無式に成立するもので、仮りに、又予約等の観念の入る余地はないのであるが、只労働関係に関しては労働者側に於て念の為組合員総会にかけて其上正式調印にする慣行あるが故にそれに従つて本件仮協定書も作成されたのであるがそれは吾ら組合側に於てこそ仮の字を冠らしめる理由があつたのであつて、被申請人側に於ては全く何等の理由があつたのではなく、只だ慣例上仮りの字を冠したに過ぎないのであるから組合側に於て所謂大衆の承認を得たる以上これはそのまま本協定としてこの効力があるものと云はねばならない。

(三)、そこで申請人は本日此仮協定書の趣旨に據り昭和二十四年三月二十日限りに支払はるべき金弐拾五万円の請求訴訟を提起したのであるが、何分前記の如き有様で労働者は実に今日の生活に窮しているのだから本案判決確定迄到底待ち切れない事情にあるので、仮の地位を与へる趣旨において本申請の趣旨の通り仮処分命令を出して貰い度いと思うのである。

(疎明省略)

神戸地方裁判所姫路支部 御中

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